プロローグ


 「ねえねえ、お母さん。何かお話してよ」
「お話?でも、あなたもうほとんどの本を読んでいるじゃない。あなたが知らないお話なんてお母さん知らないわ」
 母親は苦笑しながら洗い物を続ける。
 柔らかい栗毛をゆらしながらそれでも幼い少女はねだる。
「えー、じゃあお母さんが創ってよ」
「もう、しょうがない子ね。もうすぐおじさん達が来るんだからここ片付けちゃわなきゃいけないのに」
「手伝うから!おじちゃん達がくるまで一緒にお皿洗うからその間にお話して?ね?」
 少女は母親の隣に立つと母親から奪い取るようにして皿を洗い始める。
「はいはい。あら、そういえばあなたにまだ話したことのないお話が一つあったわ」
「え、ほんと?」
 少女は手に泡をつけたまま顔を輝かせる。
 じゃばじゃばと水音が響く。
 お昼時の光が優しく窓から差し込む。
「ええ。もう四人の勇者達のお話は読んだわよね」
「もっちろん!難しいのも読んだらなんだか四人とも死んじゃってて」
 母親はくすくすと笑う。
「大人用のも読んじゃったの。相変わらずねえ。あのね、これから話すお話はだあれも知らないお話」
「誰も?」
「そう、誰も。その四人の勇者達のお話が一番目の伝説なら、さしずめ二番目の伝説ね」
「続きがあるの?」
 問う子に母親は頷く。
「これは誰も知らない二番目の伝説。主人公はやっぱり四人の勇者達。ながーいお話だからね。心して聞きなさい。そして忘れちゃダメよ」
 母親が怖い顔をするので少女は神妙な顔で頷いた。
 母親は軽く笑う。
「物語の始まりは、何の変哲もない小さな田舎村……」
 後に聞こえるのは母親の穏やかな語りと水の音。
 そして、誰も知らない二番目の伝説が始まる。

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