2.手書きの伝説 図書館をうろついた結果、『伝説』というジャンルの本棚を見つけたが1つの本棚にびっしりと厚い本から薄い本までつまっていた。絵本レベルから研究レベルまでそろっているようだがこんなにも見つかるとはケシーは思っていなかった。 とにかくどこから読み始めていいかは分からないが読み始めようと各々が違う本をとり読みにかかってしばらく。 ケシーは本を閉じるとはあとため息をついた。 「やっぱり何も分からなかった」 「え?もう読み終わったの……ってそれ絵本じゃん!」 ケシーは迷いに迷った末、子供用の薄っぺらい絵本を取った。子供の時に何度も読み聞かされたものだ。真新しい事は何一つ書かれていない。 当たり前といえば当たり前なのだが、それにもかかわらずこの本をとってしまったのはただたんに他の分厚い本を読みたくなかったが故である。 「だって他の本読めそうにないからさ」 「私だって読めないけど頑張って読んでるよ」 とはいえリシアが読んでいる本も厚い部類には含まれない。ケシーの絵本の二、三倍はあるが。 フィービットとカーラ、特にカーラの読んでいる本と比べれば五十歩百歩、どんぐりの背比べだ。カーラは二巻構成で一冊の厚さは辞書のような研究書をさっさと選び出し斜め読みに大事な所を拾っている。到底ケシーやリシアにできる業ではない。 ケシーは大人しく絵本を戻しせめてリシアレベルの本をとろうと考えたが結局あまり乗り気になれず、同じくもてあましているリシアに話し掛けた。 「どうして絵本だと最後はみんな生き返るんだろうな」 「子供向けだからじゃないの?」 「わかってるけどさ」 子供向けの絵本では四人の勇者達は最後に生き返る。事実とされている説では死んでしまう。この真逆な結果がケシーが改めて絵本を読んで感じた疑問だった。というよりはそれしか得られなかったとも言う。 子供向けで片付けてしまえばそれまでだ。 ふとカーラが顔をあげて会話に参加した。 「でも私が昔、母に聞かせてもらった絵本では最後に生き返りませんでしたよ」 「俺は生き返っていたが。なるほど、絵本といえど一通りではないんだな」 それにしても、とフィービットは続ける。 「リシアはともかくとして、ケシーやる気あるのか?」 ケシーは自分の持っている絵本に目を向けると苦笑いして本棚にしまい別の本を探し始めた。 他の三人は各々自分の選んだ本に再び入り込む。 ケシーはなおも難しくなさそうなやつ、と背表紙に視線を走らせた。 (あれ、これ……) ふと目に映った本を手にとる。ずいぶんと古い。手荒く扱われた訳でもなさそうなのにひどく風化していた。そして何よりもケシーの視線を引いたのは。 (手書きだ、この本) 背表紙が手書きの文字だった。それが気を引いたのだがパラパラとばらけないように注意深く見てもすべてのページが手書きだった。端麗な文字で伝説のあらましが書かれているようだ。活版が主流な今の世、珍しいとしか言いようがない。おそらくはこの世に一冊しか存在しないのではないだろうか。図書館の普通の本棚に放ってあっていいのかと思ってしまった。 しかし興味をそそられる。ケシーは一番初めのページに戻ると読み始める。作者の名前は書いていないが、なんとなくこういうものを書くことを本業としている人ではないと思った。物語風に書かれているのに手書きである事も影響して日記を読んでいる気分だ。 ところどころ切れたり霞んだりして読めないところもあるので適当にケシーは読み飛ばしていたが、研究書というわけでもないのに妙なところで詳しかったりする。調べたには調べたがそれが中途半端で且つすべてを書き記すような技量もなかったといった風だろうか。 途中でリシアが先ほど読んでいた本を読み終わったのか本棚に返して新しい本をとっていた。 こんなに集中して本を読んだのはいつぶりだろうか。そもそもあっただろうか。静かな時間が流れた。 (あれ) ケシーはページをめくって驚いた。魔王の封印時に勇者達は自らの命と引換えに封印するのだ。そうして世界に再び平和が戻り、そこで終わるはずの物語。それが、彼らが死んだ後も数ページに渡って物語が続いているようだった。 しかし、途中から読みづらくなっていたその本はもはや文字をたどる事すら難しくなっている。今までは想像も加えてなんとか読み砕いてきたが、そこから先の知らない話までは想像のしようもない。 疑問に思ったのは、この本は創作ではないとそう感じたからである。伝説を下敷きにして色々と手を加えた作品は多くある。しかしこれは創作風に書かれているものの歴史書のようで事実を並べたような感があったのに、続いているというのが不審だった。 必死に目を凝らしてみるが、ところどころの単語しか拾えない。 「生き……覚悟……喜……暗黒……死に逝く……強く……精一杯……」 ケシーはあきらめた。 「なんだこりゃ。わけわかんないぞ」 放棄はしたものの、この本自体は役に立ちそうだと思った。なにせ十の魔王達を封印した場所、順番までが詳細に書かれている。情報を有しているのだ。 カーラの斜め読みも大分終わったようで、顔をあげた四人はまとめにかかった。 |
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