3.次の行く先


 「えーっと、じゃあまとめると。まず、封印してった順番だけど、初めがネアローギ大陸の東だろ?」
 カーラが広げた世界地図のネアローギ大陸東に位置する洞窟に丸をつけ一と記した。
「次にオツフォルクレブ大陸に移って北と南の二ヶ所。次がセクックテドンの洞窟。……そういえば話が逸れるけど洞窟同士って随分離れてるよな。まとめちゃえとか思わなかったのか」
 ああ、それならとフィービットが続ける。
「俺の読んでいた本に何か書いてあった。なんでもあまり接近しすぎると変な影響を与えかねんだとかなんだとか。もっとも信憑性としてはどうだかな。俺としてはその魔王とやらがその場所に居たからという理由の方がしっくりくると思うんだが」
「まあ、私たち学者な訳じゃないし今はどうでもいいよ。次々!」
 ケシーは頷いて、自分の持っている手書きの本に再び視線を落とす。
「今ので四つだよな。次がこの島か……って名前書いてないな。村とか町の名前も見えないし。無人島か?それにしても名前がないとちょっと不便なような」
「そうですね、ではななしのごんべえ島と呼ぶのはどうでしょう?」
 カーラの至極真面目な声音のその言葉に、え、と固まった三人の視線がカーラにいく。
 カーラはきょとんとして続けた。
「あ、長いですか?ななごん島とでも呼びましょうか」
 自分の発言になんの疑問も抱いていないその笑顔に三人は返す言葉がなかった。突っ込みたいが突っ込みがたい、微妙な心境だ。
 しばしの沈黙があったが結局誰一人突っ込めず暫定的に誰も名前を知らないその島はななしのごんべえ島になる。
「え、じゃあ続けるな。ななしのごんべえ島に一つ……」
 口に出すとなお哀愁を感じるがあえて気にせずに次にいく。
「次がフットバック島。で、次にリシアのいたネアローギ大陸リードルグ東の洞窟。で、ワーイス大陸に渡って、その西の端と東の端。最後が無人島サードムーンか」
 リシアが地図を指して付け加えた。
「本当の最後はココ。ネアローギ大陸西にある大きい洞窟。統べる者の眠る場所って言われている所」
 地図上にはポツリとただのインクの色なのにずいぶんと黒々とした点がうってあった。カーラが十一、と印をつける。
 しかし、番号を振ってみた所でここから何が読み取れるのかわからない。
「他に何かあったか?役に立ちそうな事」
 フィービットが眉をしかめて答える。
「役に立ちそうな事…と言っても、伝説と真逆のことが今行われようとしているんだ。伝説そのものについてはいくつか新しい発見もあったが、文献を読んでも今起こっている事象について得る事は多くなかったな。ぬかった。封じる方法は書いていなかったし」
「……俺の読んでたのには書いてあったけど」
「ケシーの読んでたのは絵本でしょ」
「違うって。あれだけで終わりにしたなんて思うなよ!この本だよ!この本」
 ケシーは先ほど順番を読み上げるために持っていた例の手書きの本をリシアに見せ付ける。絵本しか読んでいないと思われているらしい汚名は返上すべきだ。
 まあまあ、とカーラがとりなして続ける。
「それがわかれば、止められるのではないですか?」
「いや、肝心なところがかすれてて読めなかった。古い本だからなぁ」
 ぱらぱらとめくるが、どこか今にもページが抜けてしまいそうな危さがある。
 全体が意気消沈したのを見て、言わなければよかったかとケシーは軽く後悔した。他の本ならば印刷されてどこか別の場所にもう一冊あったりするのかもしれないが、あの本は手書きだ。他にもないだろう。
 苦し紛れに別のことを切り出す。
「リシアはどこの封印が解かれてるかわかるか?」
「ううん、わからない」
 だよなぁ、とケシーはぼやく。やはり進めない。そういうことがわかっているならば、リシアは自分から言い出したろうからある程度予想はしていたが、当たって欲しくはなかった。もっともわかったところで何がわかるかもわからない。
(解かれている場所……いない場所。あれ、そういえば)
「ワーイス大陸には、モンスターがでないんだよな?つまり封印が解かれてないってことで」
 ケシーは地図のカーラのふった番号を見る。全員が同じように地図を覗き込んだ。
 ワーイスにある二つの洞窟に振られた番号は、八と九だ。最後の方に封印されたのだ。
 もしかしたら。はやる心を抑えて視線を、ネアローギ大陸リードルグ――リシアのいた洞窟にまでずらした。リシアの話ではすでに封印が解かれているのは六、七ヶ所。リードルグの数字が六か、七ならば。

 七、だ。

 期待した数字と合致した。
「これか!封印していった順に解いていってるんだ!」
 場所を考えずに大きな声をあげたのでリシアにはたかれたが、リシアの顔にも笑顔が浮かんだ。
「そうみたいだね。つまり、あいつらが次に解こうとしてるのは」
「ワーイス大陸西端の洞窟、か」
 フィービットが満足気に言った。
「そこに行って、封印が解かれるのを防ぐ事が出来れば、統べる者の復活も止める事ができると言う事ですね」
「なんかケシー、久々に冴えてるじゃん」
「そ、そうか?」
 言われて悪い気はしない。久々に、というのは気になるが、確かに冴えていた記憶もない。というより最近のものでは抜けていると言われた記憶しかない。
 そこに、冴えているついでにもう一つ思いついた。
「あ、確実性を取るなら先に統べる者以外の洞窟で最後の、サードムーン島に行ったほうがいいんじゃないか?時間に余裕を持ってさ」
 え、という目で三人がケシーを見る。
 しかしそれは断じて冴えた案に対する驚きの表情ではなかった。
 その上リシアは眉をひそめて軽く軽蔑交じりだ。
「……なんか、変なこと言ったか、俺……?」
「あの、ケシーさん。サードムーン島は無人島ですよ?」
「それがどうかしたか?」
 あーあ、とリシアがため息をつく。
 ケシーより遠くを見てリシアは呟いた。
「冴えてるのはマグレだったみたいだね」
「え、どういうことだよ?」
 一人分かっていないのかと焦るが、焦るほどに考えが霧散していって何が何か分からない。
 パニックを起こしかけているケシーにフィービットが冷静な声で説明した。
「いつくるかわからないあちらさんを、水も食料も不確かな場所でずっと待ち伏せるつもりか?」
「あ」
 無人島とまで言われたのに。
 その低めの声が、さらに心を抉ったような気がしたケシーだった。
 そこにリシアが容赦ない追い討ちをかける。
「抜けてるよ、ケシー」
 がくりと項垂れたケシーをよそに三人は次の目的地をさっさと定めていた。

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