4.風雲急 今は急がば回れより、善は急げである。四人は少々強行と分かりつつも、近いということもあってザットの北西にあるザット港を目指した。 そのザット港から、ワーイス大陸トライス港に向かう算段だ。トライス港はワーイス大陸の南にある。付近には次の次に解かれると予想される洞窟もあった。西端の洞窟まではそれなりに歩かなければならないが、おそらくそれが最短だ。 港についたのは日暮れも近く、西の海が赤く染まっている頃だった。最終便は出てしまった後のようだが、明日の始発の船の空をとることが出来た。最近は、ワーイスに渡るものも少なくない。それはもちろんモンスターの脅威に怯えることなく過ごせるからなのだが、そのせいで始発便は満員になりかけていた。善は急げは当たったらしい。まだ脅威に晒されていないワーイスも、モンスターが現れるのは時間の問題だろう。 とにもかくにも無事に始発の取れた四人はその日は港にぽつりと立っている宿に入った。こちらも空室が残り一でそちらをリシアとカーラに譲りケシーとフィービットは頼み込んでロビーのソファを使わせてもらう事にした。 海の香りを吸い込んだソファはなんとなくカーラの家を思い起こさせた。野宿も含め、あまりまともなところで寝ていないと内心ぼやくケシーだが、かといってリシア達を追い出しては寝心地が悪くて眠れないだろう。同じ寝心地の悪さならこちらの方がましだ。 誰もいないカウンターに一晩中ついているらしい薄明かりを目の端に感じながらケシーは目を閉じる。 そこにもう一つのソファからため息が聞こえた。 「どうかしたか?」 フィービットがはっきりしない声でぼやく。 「いや……明日はトライスか」 「何言ってるんだよ、今更」 「なんでもない。寝るか」 「え?ああ、うん」 なんだ、と思ったが強行でここまで来た事もあり、昼間に滅多にしない読書をしたということもありであまり考える間もなくケシーは眠りの淵に引き込まれていった。 フィービットはしばらく薄明かりに照らされる天井を見つめていたが、やがて無理にという風に瞳を閉じるとやがて寝息を立て始めた。 トライスまではすぐだった。地図の上では一見すると離れているが、北と南はつながっている訳で、今までの船旅で一番短く済んだ。どうりで料金も格別に安いはずだと思ったほどである。 「っわー!トライスなんて来た事ないけど帰って来たぁ!って感じだよね」 まだ温まりきっていない午前の空気を潮風と共に吸い込むとリシアは大きく伸びをした。風がリシアの青い髪を、カーラの黒い髪を揺らす。海辺だからか風が強かった。 リシアの言う通りなのだ。ワーイスから飛び出て、そしてまたワーイスに帰ってきたのである。ラッカンスの村はここからはまた少し遠いのだが、陸続きと言えば陸続きである。この大地に再び立ったのだ。感慨深かった。 「リシアさん達はこちらの出身ですものね。……しかし、何か騒がしくありませんか?私、港はあまり知らないのでこういうものなのかもしれないですが、妙に落ち着きのないというか」 騒がしい、というよりも確かにざわついているような気がした。 いや、とフィービットが軽く呟き周囲を見回す。 「ちょっと何があったのか聞いてくる」 フィービットはそういうと一人で港の出店の一つにむかった。 そしてそこの主人と軽く話すと踵を返しケシー達の方へと駆けてきた。その表情は、昏かった。 「なんだったんだ?」 ケシーは眉をひそめて問う。 お祭が始まる訳ではないらしい。 三人の表情が締まる。 フィービットが重く口を開いた。 「……まずい、ワーイスにもモンスターが出たらしい」 「なんだって!?」 「では、少なくとも西端の洞窟は……」 「解かれちゃってるってこと?」 遅かったか。 苦々しげにフィービットが言う。 「だろうな。……考えたくもないが、最悪の場合この近くにある洞窟も」 「悩んでても考えててもどうしようもない!とにかく確認に行こう、その洞窟に!」 ケシーの言葉にフィービットが先陣を切って走った。 「俺が場所を知っている、行くぞ!」 強風を切り走る。 さっと太陽の光を雲が遮った。 風雲は急を告げる。 |
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