間1 躊躇い・決意 ふうと一人の男がため息をついた。 引きちぎれたカーテン、何かの生々しい傷跡の残る床。そしてそこに置かれた質素な机や椅子。 漂う雰囲気は廃村のそれだが、埃などがたまっている様子もなく、どこか清潔感すら漂っている。廃村だった場所を誰かが廃村と世間には思わせていおいて利用している。そんな感じだ。 そしてそれはまさしくその通りだった。 午後の生ぬるい陽射しが窓から差し込み、二人の男を照らす。 「俺は手を出すなっていったはずなんだけど……」 「すみません、ギルバーツ様」 男の内の一人――黒ずくめは下にかがむ。 「だから様付けとか止めろっていってるだろ、な?俺はそんなに偉い人間じゃないんだからさ。お前らと一緒なんだから。立ってくれよ」 ギルバーツは座っていた椅子から立ち上がり少し慌てた風に言う。しかし黒ずくめは耳を貸さない。 「いえ、あなたは俺たちを取りまとめてくださいました。そして今この一瞬に俺たちを必要なものとして扱ってくださる」 「まあ、世界が滅びるまで、だけどな」 「ええ。俺たちは皆それを待ち望んでいます」 ギルバーツは微妙な、しかしどこか嬉しそうな顔でうなずいた。 「もちろん、俺もだよ。でもなぜ手を出してしまったんだ?あの二人が何かしたわけでもないんだろ」 「クレファンスがギルバーツ様を侮辱したため、ついかっときてしまって……すみません。しかしクレファンスは俺たちと同じなのになぜあなたに賛同できないんだ」 ギルバーツは不意に瞳を細める。光が彼の色素の薄いそれを射た。 「それは――彼女は幸せだからだろう」 ギルバーツは自嘲的な笑みを浮かべた。そしてそれはどこかリシアをうらやんでいるようにも聞こえる。 「幸せ、ですか。俺たちには程遠いものだ」 ふんと黒ずくめは鼻で笑う。 「……。引き続き、ケシー・スィンド、リシア・クレファンス両二名の動向を探ってくれ。今のところこの計画に気付いているものは少ないはずだからとりあえずこの二人だ。この二人は……もしかしたらこの計画で一番邪魔なものとなるかもしれない」 「わかりました」 そういって黒ずくめは立ち上がるとギルバーツの部屋を後にする。 扉が閉まる音を聞いてからしばらくしてギルバーツはぼやいた。 「まさか……とはなぁ」 一人の女性が思い浮かぶ。 しかしそれを無理に振り払った。 そして強い光を宿した瞳で宙を睨む。 「必ずこの計画は遂行する」 それはどこか自分に言い聞かせているようでもあった。 |
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